高価な缶詰

シュールストレミング、それは「世界一臭い食べ物」と評されるスウェーデン産のニシン缶のことである。日本ではあまり流通していないようだが(少なくともスーパーなどの店頭には置いてない)、探偵ナイトスクープその他諸々のバラエティー番組で取り上げられたことがあるため、ご存知の方も多いだろう。これを、オークションを通じて同居人の永が取り寄せ、試食会を催すというのでせっかくだから参加することにした。



場所は理学部6号館の中庭。13:00ごろからゆるゆると集まり始める、とのことだったが、不覚にも寝坊してしまい、14:00ごろ到着した。中庭にはすでに15人ぐらいが集まっており、持ち寄った酒や食べ物をつついている。ごく簡単な自己紹介を済ませた後、私もその輪に加わった。


宅配されてきた時の箱。中に入っているのは到底1upするとは思えないような臭い缶詰。


結構遅れて来る人がいる為、15:00まで開缶するのを待つらしい。聞けば、富山や東京からわざわざ来る人もいるとのこと。まさかこのためだけとは思えないが、その行動力はまさに「類は友を呼ぶ」ということか。



箱入りのまま放置するのも何なので、出すことにした。


やはり缶の上部が微妙に膨らんでいる。さすがにこの状態で爆発することは無いとは思うが(それはそれでオイシイ。特に缶の周りには白い服の人が数人いた。)、皆の取り扱いが慎重なものになるのは当然のことだろう。




記念撮影会勃発。缶を撮っているというよりも、まるでアイドルの撮影イベントのよう。みんな距離マニアも納得のなかなか良い距離を保っている。



ちなみに今回の首謀者主催者の永氏。


だらだら飲んだり食べたりしているうちに人もだんだんと集まってきて、約束の15時を迎える頃には何と30人程の規模に。そろそろ良かろうということで、いよいよ開缶する。



名誉ある開缶役に選ばれたのは、永氏の研究室からの参加者で一番年下だったS田君。開缶時に汁が飛び散ることがあるということだったので、何があってもいいように、上下合羽+手にはビニール手袋という完全装備である。しかしここまでやっておいてどうして頭は完全無防備なのかかなり疑問。眼鏡は、貴方が思っているほど貴方を守ってくれるわけではないのよ。




カウントダウンと共に開缶

「開かない、開かない」焦るS田君

見ると缶切りではなく栓抜きで開けようとしている




といううっかり萌えそうな心温まるハプニングもあったが、気を取り直して再度3からカウント開始。
3、2、1、ブシュゥゥゥゥゥゥゥ。



あれ?汁飛ばないの?



音こそ凄いものの、何と皆が心ときめかせて待っていた“汁の飛び散り”は全く見られなかった。*1発酵が足りなかったのだろうか?平和な食事会が約束されたのは結構なことかもしれないが、「飛び散る臭い汁のせいで阿鼻叫喚」を期待してそれとなく人の壁を作っていた私としては、少し残念であった。



安全が確保されたこともあって、それまで距離をとっていた人々もわらわらと缶の周りに集まり始める。その中でキコキコと順調に缶を開け進めるS田君。そして順調に拡散し始めるニオイ。臭い。確かにこれは臭い。とても食べ物のニオイとは思えない。S田さん(≠開缶役。27歳)は「ドリアンのニオイ」とかろうじて食べ物を挙げていたようだが、他の人達の感想は概ね「生ゴミ」といったところか。私の感想は「魚が刺さっているのに気付かず風通しの悪いところに2、3日放置した、生乾きの状態の刺網もしくは投網のニオイ」。要するに腐りかけた魚が出す腐敗臭である。
一応これ、発酵食品なんやけどねぇ…。


 

中身。「塩漬けの魚」と言うとカチンコチンのイメージがあるが、いやにどろどろして生っぽい。まるで塩辛のようである。実は最近フォトライフの容量が10倍の30Mになったので、今回は試しに大きな写真をたくさん使ってみたりしている。




見てくれやニオイは気にしない人々。まるで飢えた獣の群れに肉を投げ込んだようである。



集まった面子が凄いのか、そもそも人が多いのか、缶詰の中身はみるみるうちに減っていく。このまま大人しく眺めているだけでは三代後まで悔やまれる事態となりそうだ。隙を見て少し失敬し、買ってきた食パンにのせて食べてみた。


溶けて柔らかくなっているのは肉のみで、骨や鰭条は意外としっかりしているため少々食べにくい。で、肝心の味はというと「しょっぱい」の一言。あまり魚の味は感じられず、生臭くてしょっぱい食べ物というのが正直な感想である。不味くはないが、だからと言って無茶苦茶美味いわけでもない。思ったほど悪くは無いけれどもただそれよりも生臭しょっぱくて、これは量食べるもんじゃないな、むしろ一生に1度でいいなと思った。





綺麗に完食。開缶からここまで、なんとわずか15分である。発酵したニシンもさぞ本望であろう。





そしてその汁をエッペンチューブに取り分ける人々。保存し、時折ちょっとだけ開けてみて後々までニオイを楽しむのかと思いきや、ニオイ成分や懸濁物など色々と分析してみるためらしい。これだから理系の人間ってやーね。





試食会の最後を締めくくったのは、差し入れの日本酒による缶のとも洗いであった。この信じられないような無茶振りをしたのはH田さん(他人事万歳)。飲むのは勿論主催者である永氏。永氏はせっかく試食会中に参加者から「何だかこの頃顔色が良くなったね」と言われていたところだったのに、これだけ大量の塩分を摂ってしまっては綺麗さっぱり元通りであろう。事実、この後若干体調が悪くなったらしい。なんまんだぶ、なんまんだぶ。



というわけで、永氏と愉快な仲間達により開催されたシュールストレミング試食会は、近隣の住宅から苦情が来たり、異臭騒ぎになったりすることもなく、夕方ごろ無事に幕を閉じたのであった。なお、今回の試食会にはどういう繋がりか読売新聞の記者が参加されており、「他に大きな事件とかがなかったら記事として掲載されるかもしれませんよ〜」と言っておられたのだが、後の永氏からのメールによると何と写真入りで新聞に掲載されたらしい(残念ながら記事は既にヨミダス文書館の中)。毎度のことながら彼の顔の広さには恐れ入るばかりである。このままぜひとも有名人になってもらいたいものだ。「なかなか使いにくい」という苦情が来たけど、誕生日プレゼントに野望ポスターを贈って本当に良かった。

*1:動画もあるけどいろんな人の顔がモロ出しなので割愛