よそ見厳禁

痛い表現が苦手な方はおやめください。


いや、あたしはね、いつものようにサンプルに耐水紙のタグを結び付けていただけなんですよ。まず耐水紙に針で糸を通して、それを今度はサンプルの尾柄部にくくりつける。もう卒研以来3年も繰り返してきた動作です。
だからね、正直言ってしまえば気の緩みってのもあったのかもしれませんね。
その日は寝坊したこともあって、急いで作業をしてたんですな。時折時計をちらちらと見ながら、「ああ、いついつまでにこれを終えてなくちゃいけないのに」ってな感じで。
もちろん作業中にそんなことはいたしません。いくら慣れてるからといってもよそ見してちゃ危ないですからね。時計を見るのは何個体か終わって少し休むような時だけです。でも、何と言うか、魔が差したというか、最後のサンプル用の耐水紙に糸を通す時に限って、少しだけ時計の方に気がいっちゃったんですね。
「ああ、やっとこの作業が終わった。今4時だから次は…」


その瞬間、針が左手人差し指の、指と爪の間の柔らかい部分にザクッ!と…


声にならない痛みって奴ですかね。左手押さえてひとしきり悶えました。
聞く所によると、これ拷問でも良く使われる方法だそうですよ。
その場合は針だったりハリガネムシだったり色々みたいですけどね。
とにかくしばらく忘れられないような痛みでございました。


え、実は案外気持ち良かったんじゃないかって?馬鹿言っちゃいけないよ、お兄さん。
人を勝手に変態にしないでおくれ。
あたしは確かにギリギリまで粘って自分の体を酷使するのは好きだけど、それとこれとは別だぁね。
亀とすっぽんぐらいの差があるよ。