落し物の網

実験が上手く行かなかった日のこと。
水槽部屋から研究室までの道すがら、飼育に使う小さな網(こういうやつね)を落としてしまった。気付いたのは1時間後で、外は真っ暗。眼を皿のようにして探しても見つからず、「泣きっ面に蜂とはこのことだぜHAHAHA!」と諦めつつも、明るいうちに探せば見つかるかもしれないと考え、とりあえずその日は帰ることにした。


翌朝大学に来てみると、研究室の机の上にその網が。


何で?


確かに名前は書いてあったから、誰か水槽部屋を使っている研究室の人がたまたま拾って届けてくれたのかもしれない。そう思って心当たりのある人に次々に尋ねてみたが、みな口を揃えて知らないと言う。
これはまさか、道具への並々ならぬ愛情が、どんなことがあっても必ず持ち主の元へ帰って来る“呪いのネット”を生んでしまったのだろうか。
そんなことを考えてニヤニヤしていたら、答えは意外な所から返ってきた。


秘書さん 「アレ、そうでした?」
たわし 「? 何がですか?」
秘書さん 「あのネット」
たわし 「!」
たわし 「あーあれ、落としたやつです。探してたんですよ。秘書さんが拾ってくれたんですか?」
秘書さん「いえね、下のメールボックスに入ってたんですよ」
たわし 「…めえるぼっくす?事務室の?」
秘書さん 「そうそう。うちの部屋の」
たわし 「郵便物とか届く?」
秘書さん 「そう。何でか知りませんけど」


おそらく見知らぬ親切な人が事務に届けてくれ、そこから名簿を探すなどして持ち主を突き止めてくれたのだろう。愛着がある網なので、手元に戻って来て本当に嬉しい。自分の周りは親切な人で溢れている、そういう優しい気持ちを思い起こさせる非常に心温まるエピソードであった。




たわし「落とした網が机の上にあったんだけど、知らない?」
N仙人「俺じゃないっすよ」
たわし「そう?いやーでもホント戻ってきて良かったよ」
N仙人「たわしさんの日頃の行いが良かったんでしょう」
たわし「え、そうかな?」
N仙人「さあ知りませんけど、いやぁ、まあ、良かったんじゃないっすか?


N仙人、てめーは許さん。
俺のこのウォームされたハートを返せ。