床屋の楽しみ

「泥棒野郎!」

誕生日祝いということで夕食をM田さんに御馳走になった帰り道、最近新しくできたドラッグストアに立ち寄り、かねてから欲しいと思っていたあるブツを購入した。


それが左の写真。そう、吉田戦車曰く「洗髪の時かいてもらうと気持ちいい丸いくし」である。


本当は、まさに床屋で見かけるような、白くて硬い突起がたくさん出ているチープなやつが欲しかったのだが、残念ながらこの店にはこれと、突起ではなく細かい歯ブラシのような毛がたくさん生えているものの2種類しか売っていなかった。他店に行けば売っているのか、それともこういったオサレ感溢れるモノがいまの主流なのか。商品がぶら下がった棚の前でしばらく考えた結果、歯ブラシのような毛では髪が伸びた時に太刀打ちできないであろうという結論に達し、こちらを購入することにしたのである。


思えば、私がこの丸いくしに出会ったのは大学に入った直後。適当に入った床屋で受けたその衝撃は、まさに天にも昇る思いであった(洗髪時、というよりはカットの後で毛を掃うのに使用)。以来、その床屋には7年間通うことになったのだが、それを支えたのはその5分にも満たない至福の時であったと言っても過言ではない。マスターの腕がARMSもびっくりの超振動兵器になり、刈られているこちらが不安を覚えるような事態にならなければ、この蜜月はさらに続いたことであろう。それほどまでに抗い難い魅力を、このくしは秘めているのである。


新しい床屋に通い始めて1年が過ぎた。京都に来てから2軒目の今の店は、大学から近くて安くて刃傷沙汰にならないので重宝している。ただ、ただ、ただ1つ注文をつけるとすれば、毛を掃うのは指だけじゃなくて丸いくしを使ってもいいんじゃないか?毎月散髪に行く度に、丸いくしを使う他の床屋を探して乗り換えようか真剣に悩む。今回の買い物が、この厚く立ち込める憂いの雲を晴らしてくれることを切に願いつつ、たわし頭は風呂場に向かうのであった。