捕食者の胃内容分析終了

手持ちのサンプルのうち、“明らかに胃内容物が入ってそうな個体”の解剖が終了した。その数、約270個体。前回、一旦解析してみた時から100個体分増えたことになる。
これまでずっとホルマリン固定されたサンプルの解剖を行ってきた身としては、生サンプルの解剖というのは驚きの連続であった。以下、メリットとデメリットに分けていくつか述べてみようと思う。



〜メリット〜
・餌生物の同定がしやすい
魚種によっては、色彩・斑紋が同定の重要なキーとなる場合がある。固定サンプルの場合、放置した期間にもよるのだが、これらは失われてしまっていることが多い。生サンプルでは、未消化のものならばこれらは程良く保存され、餌生物を種まで『おとす』ことが可能となる。また、胃の蠕動によって、餌生物は首と胴体がそっぽを向いていることも珍しくない。固定サンプルでは難しいこのような姿勢の修正も、生サンプルでは比較的容易に行える。


若干体に優しい
綺麗な餌生物に出くわした場合、顔を近づけてまじまじと見たいのが人情というもの。固定サンプルでは、高確率で粘膜に会心の一撃を与えてしまうが、生サンプルなら薬品で汚染される恐れもない。




〜デメリット〜
・生臭い
当たり前。だって生だもん。しかし魚臭いだけならまだ良いのだが、鮮度の悪い冷凍サンプルの内臓および胃内容物から立ち上る気体は瘴気と言っても過言ではない。気分が悪くなることも多々有り。上で若干と書いたのはそのため。
そして白衣も生臭くなる。これは白衣で手を拭く癖のため。


・もろい
固定サンプルと比べて生サンプルというのは非常にもろい。消化が進んでいれば尚更である。消化に伴う餌生物の状態をを分かりやすく諸星大二郎の漫画『暗黒神話』で例えると、


  ほぼ未消化の餌生物(その後の骨格測定もばっちり!)…武内宿禰
  少し消化の進んだ餌生物(ギリギリ測定可。ものによってはヤバイ)…弟橘姫
  随分消化の進んだ餌生物(使用不可。種同定さえ困難)…その他のみなさん


何て分かりやすい例えだろうか。



※これでもイメージできない方のために
諸星大二郎の漫画『諸怪志異(1)異界録』の中に収められている『異界録』で例えると、
  ほぼ未消化の餌生物…引っ張り込まれて1ヶ月ほど経った溪嚢
  少し消化の進んだ餌生物…引っ張り込まれて10日ほど経った溪嚢
  随分消化の進んだ餌生物…引っ張り込まれてすぐの溪嚢



せっかく綺麗な餌生物が得られても、取り出す時に壊してしまっては元も子もない。固定サンプルは多少ぞんざいに扱っても構わないが、生サンプルでは少し注意が必要である。というわけで取り出した餌生物はぞんざいに扱えるようにすぐ固定。




こうして得られたサンプルのうち、最終的には一体どれくらいの数が解析に回せるのだろうか。そして、18日のゼミ発表には間に合うのだろうか?私の研究はここからの道のりが長いのである。そろそろコキュートスに落ちる見通しを立てんとなあ。




<おまけ>餌生物の例

最初はごく普通種であるウミドジョウかと思って固定してしまったのだが、よくよく調べたらどうもサイウオ科(2006年2月参照)のような。表皮や鰭が幾分消化されてしまっているのではっきりとは言えないが、こんなにしっかりした腹鰭を喉位に持つ魚は他にいないだろう。
レアざかなだったのか。生の状態で写真撮っておけばよかった。がーん。




12/10追記
諸星大二郎を知らない」という人生何分の一か損している人の為に、一般教養である荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』第4部『ダイヤモンドは砕けない』で例えると、


  ほぼ未消化の餌生物…スタンド針が刺さった瞬間の仗助
  少し消化の進んだ餌生物…「仗助のやつ…外しやがった…」のシーンの承太郎
  随分消化の進んだ餌生物…溶かして固められた老夫婦