4日目

珍しい

2日連続で琵琶湖。寝不足と筋肉痛でかなりだるいが、週間天気予報を見る限りでは今日を逃すとまたしばらく出られない様なので、渋々採集地に向かう。
寝坊とだらだら準備のせいで、到着したのは昼前になってしまった。天気の良さに反して釣り人はほとんどおらず、いるのはつい今しがた来たと思われるサラリーマンっぽい男性のみ。ここでは昼休みかサボリなのか、車を停めて中で昼寝している人がいたりもするので特に珍しい光景ではない。荷降ろしをしていると、話しかけられる。


「魚釣り?」「いえ、釣りではないんですけど…」
「潜って捕んの?趣味で?」「いや、これが仕事なんですよ。大学の研究で」
「あー、学部の4年生か何か?」「いや、博士課程の1回生です」
「博士(笑)。じゃあもうずっと魚捕りばっかやってんの?」「はあ。」
「何、じゃあ将来は研究職?」「そうですねー」
「そうかー、大学入って、院に進んで、魚捕りかー。」「ねぇ。」
「楽しそうやなー」「今日みたいな日は特にそーですねー」


みたいな会話をした後、調査ポイントに荷物を運ぶ。潜る準備をしていると、再びさっきのおっさんが近づいてくる。


「すぐ捕れるんか?」「まーここたくさんいますからねー(以下手法の説明)」
「2時間で30匹…最初に捕って上がってくるまでにどれくらいかかるん?」
「15分ぐらいすかねー」
「じゃーちょっと見せてもらおうかなー」「あ、いいっすよー」


刺網を持って水中へ。設置すると、待っていたかのように巨バスが現れて網に頭を突っ込む。そうか、そんなに私に会えたのが嬉しいか。はっはっは。


ぶちっ、ぶちぶち、ぶちっ。
こらこら、いくら嬉しいからってそんなに暴れるんじゃない。
ちょっとはしゃぎすぎだぞ?


開始2分で網がズタボロになるとは。しかしこの日も魚影は濃く、10匹ほど捕獲して一旦岸に向かう。


「こんな感じです」「一杯捕れるんやなー。」
「で腹腔にホルマリンを打って…これの繰り返しです」


ホルマリンを打ちつつ、たわいも無い会話をする。何でこの道に、普段はどんな生活を、どういった研究を…などなど。
「で、それが何の役に立つん?」「まーその辺は色々とあるわけです」
で、再び水中へ。今日は水もそう冷たくないし、視界もいいしで結構楽だ。体のだるさが災いしてせっかく捕った奴を逃がしたりしてるから、差し引きはゼロかもしれないが。


で、再び岸に向かう。あれ、まだいる。まーいいや、ホルマリン打とっと。


「…宇宙人が地球にどうやって来てるか知ってるか?」


…何ですと?


「さー、UFOですか?」
「そんなん星の間は何光年、何億光年とあるんやから時間的に無理やろ?あれはな、意識だけの存在になって移動して来よるねん。集中して、肉体を無くして意識だけの存在になって、移動したい場所をイメージして、到着してから肉体を再構成する。意識だけなら時間も関係ない。」



昼間から何を言ってるんだ君は?



「それ誰が調べたんですか?宇宙人に直接聞いたとか」
「そういうこと天然で出来る人がおるねん」


ということで教えてもらったのがここ(サイドバーの「モンロー研究所の紹介」)。でもここが掲げているのは“魂の体外離脱”であって、何でこれが「宇宙人の移動方法」になったんだろう?さらにおっさん曰く、「これが普及すればヒトが生きているうちに到達できないような惑星への移動が可能になる」とのこと。発想は面白いけど、どーなんだろうねー。


三度水中へ。捕獲効率は大体同じ。そして15分後、水から上がる。あ、流石にいなくなってる。
と思ったら、どうやらコンビニに行っていたらしい。ペットボトルのお茶をくれ、横で買ったばかりのビニールシートを広げ始める。


「昼寝していこうかな」


…仕事は?そして再度不思議トーク。テーマは“生命って何で生まれるの?”
(教科書的な解説の後)
「どうもタンパク質の塊から命や意識が生まれるって言うのは信じられへんのやけど」
「まー、億単位の時間なんて想像できないですからね。検証不可能だし」
「何かこう、『“生命”を造ったそれ以前の生命』がいるような」
「そういう考え方の人もいますねー。特にアメリカでは、ダーウィンの進化論と、神が全てを作ったとする創造論と、それが少し形を変えたもので『地球は巨大な実験場であり、偉大なる知性によって生命が作られた』という考え方(インテリジェント・デザイン論)を同様に学校で教えるように、との主張もあるぐらいですからね」


その後も潜る→ホルマリン打ちを繰り返し、今日の作業終了。…ほんとに昼寝してるよ。荷物をまとめ、目を覚ましたおっさんに一声かける。
「まだしばらく昼寝して行くんです?」「うん。もう帰るんか?」
「はい」「そうか、じゃ気をつけて。楽しかった。また会おうな。」
「はい、喜んで。失礼します。」


たまにはこういう面白い出会いもあるもんやね。白熱すると仕事にならんから今回はあまり深入りしなかったけど、これ系の話は好きやし時間あるならもっとしたかったなぁ。



ちなみに研究室に帰ってこの話をしたら、「宗教の勧誘だろそれ」と言われました。
それにしては微妙過ぎ。